Snow

13番都市小ネタ


ユキとトモとフリニカル
「やあユキ……っとそれからトモちゃんもいるのかい」
「ごぶたさしてます、先生」
「フリック! 待ってたよ。技師団に引き渡さずにフリックに渡したかったものがあるんだ……ちょっと待っててね……あったこれこれ」
「ユキ、先生にこっそり色々渡すのは良いけどオレの目の前でやるなよ……一応オレも技師団」
「でもトモは内緒にしててくれるでしょ?」
「お前なあ……」
「ふふふ二人は仲良しだねえ。で、ユキは何を見せてくれるのかな」
「あぁ、これだよ。金属で出来た箱みたいなんだけどね、中に何か絡繰りが組み込まれてるみたいなんだ。大分錆びちゃってるけど、元はきっと綺麗だったと思うし、技師団よりはフリックかなあって思って」
「ふむ……これは……オルゴオルだね。ん、しかしぜんまいが錆びちゃってるな」
「先生、オルゴオルって何ですか」
「ん、あぁ、オルゴオルって言うのはねこのぜんまいを巻くと音楽の鳴る箱のことだよ。見た目も様々で美しくてね……汚染前の世界ではごく一般的に売られていた…そうだね、おもちゃとは違うな……」
「音楽……?」
「おや、ユキは音楽も分からなかったか……あぁいやしょげることは無い。今じゃ定期的に音楽を楽しむ心の余裕があるのはごく少数だろうからね。ましてユキは記憶が無いのだから。しかし、ふむそうか…ユキは音楽を知らないのか」
「都市じゃあ医療サーカス団の奴らが音楽を使うからオレらにはわりと身近なもんなんだけどなあ」
「ねえねえ、だから音楽ってなんなのさ!」
「うぅん、そうだねえ……」
「ねえ、先生ちょっとそれ貸してよ……うん、うん、あぁなるほど。これくらいだったらオレ直せますよ。ちょっと工具取ってくるんで待っててください。ユキ、音楽って何か教えてやるからちょっと待ってろ」
「えっ、トモ、それ持ってって中で作業しなよ。マスクつけてたらやりにくいでしょ」
「いや、これくらいマスクつけてても普通に直せるよ。それに、ユキもこれが直るとこ見てたいだろ?」
「それは……そうだけど……」
「それならユキ、トモちゃんの提案を飲んであげなさい」
「え、あぁ……うん、じゃあトモ、早く帰ってきてね」
「おう、ちょっと待ってろな」

・・・


・・




「うっし、これで多分音が鳴るようになるはずだ」
「ちゃちゃっと直しちゃったね」
「トモちゃんはさすがだねえ」
「じゃあ、ぜんまい巻くからな」


ピンポンパラン...

    ピンポロンパラン...

            ピンポロンパランピンポロン...

「ふむ、薄い金属の板が突起に引っかかり弾かれる音で奏でてるわけだね」
「はい。ちょっと錆びてたのを油差して布で磨いてやって、ちょっと緩んで馬鹿になってるところをいじってやっただけです。構造自体は簡単なので、まぁ自作することも出来るでしょう」
「はー…これが音楽? なんだか、不思議で綺麗だね……」
「そうだね。一応言葉で説明するのなら、音の高さと長さを組み合わせて作る一種の芸術だね。昔は楽譜と呼ばれる記号の組み合わせや録音技術……つまり音をそのまま機械に保存する技術だね、そんなもので保存してたみたいだよ」
「オルゴオルも、保存方法の一種だったんでしょうか」
「んー、どうだろうねえ。昔はもっと音楽って身近なものだっただろうからね。オルゴオルは楽しむためのものだったのではないかな」
「ねえ、フリック、この音楽に名前はあるの?」
「ん、あぁ、音楽って言うのは総称で作品一つ一つのことは”曲”と呼ぶんだよ。もちろん、ほとんどの曲には名前がついてるけれど、私にはこの曲の名前までは分からないねえ」
「そっかあ……あっ、ねえトモ。今度これ持っていって技師団で作ってみたらどう? これと同じ曲を奏でるオルゴオルなら比較的簡単に作れるんでしょ?」
「え、あぁまぁ作れるけど、生活の役には立たねえしなあ」
「栄えた都市に住む富裕層にでも高額で売り付ければ良いじゃん」
「うーん、良いアイデアかもしれないけれど、そんな都市ならまだオルゴオルみたいな娯楽製品を作る技術が残ってて、オルゴオルもそんなに珍しいものじゃない可能性があるからねえ」
「ちょっとそんなものに貴重な資源を割くことは難しいと思うぜ」
「じゃぁ、このオルゴオルはこのまま忘れ去られてしまうの?」
「いいや、ユキ。これは君が持っておいで。そうしたら君がずっとこのオルゴオルを憶えていてくれるだろう?」
「いやいやフリック、そういう事じゃないじゃん」
「いいや、そういう事だよ、ユキ。また必要とされる時が来れば自然とオルゴオルは作られるようになるさ。今はまだそのタイミングじゃあ無いからね」
「ていうか、フリックに渡すつもりだったんだけど」
「私はそのオルゴオルが復活するところを見届けられただけで十分さ。君が持っておいで」
「よっし、じゃあさ、このオルゴオルの曲に名前つけようぜ名前」
「へっ?」
「もし、オレやユキが生きてる間に、そのオルゴオルを作る余裕ができたら、今名付ける名前で売っちまおうぜ。どうせきっともう誰も憶えてない曲だ」
「それはいいね。ふむ…それではスノウというのはどうだろう」
「ずいぶんさらっと候補出してきたね」
「あぁ、この曲を聴いた時から思いついていたんだ。昔、世界には雪という天候があったんだ。空からふわふわした氷が降ってくる。そうするとその雪が積もってあたりは真っ白にきらきらと輝く世界に変わったそうだ。この曲のイメージにぴったりだろう? そしてその雪の別称が、スノウ」
「雪……雪かあ……僕と同じ名前だね!」
「そうだな、このオルゴオル見つけたのもユキだしな。スノウ……うん、良いと思います」
「いつかまた、みんなに聞いてもらえる時が来たら良いね」