マサキ君の独り立ちの日

イサクさんち
「イサクさん、俺、来週15歳になるじゃないですか」
「おーそういやあ、もうそんなになるのか」
「早いね、お祝いしなきゃ」
「あーいや……それでですね、俺、そろそろ独り立ちしようかな、と」
「へっ?! マサ兄家出んの?! なんで?!」
「そうだよ、別に独り立ちする必要なくない? 結婚するわけでもないんでしょう?」
「いやまあ、そうなんっすけど、あんまりずっとイサクさんにお世話になるのもなあ、と」
「は? え、なんで? ちょっと話が見えないんだけど」
「あーなるほどなあ」
「俺を養子として引き取ってくださったこと、今でも……いや今だからこそ本当に感謝してます」
「えっ、ちょっと、ちょっとまっ……えっ?」
「そんなかたっくるしいこと言うんじゃねえよマサキ。お前にとっちゃあ親は手前を生んだ2人だけかもしれねえが、俺にしてみりゃ俺の子供はお前を入れて3人だよ」
「そうだよ、マサ。お前もおれの大事な弟だ」
「イサクさん……ニードさん……ありがとうございます。本当に、ありがとうございます……。俺も、ちゃんと自分はこの家族の一員だって、思えてます。でも、俺はやっぱりイサクさんの息子ではなく、13番都市の都市民として認められたいんです」
「まてまてまて!!! ホントお願い待って?! オレだけ?! マサ兄が養子だってことに驚いて話についていけてないのオレだけなの?!」
「えっ」
「あん? なんだトモお前まだマサキが養子だって認めてなかったのか」
「涙目になっちゃって……ほら、トモ落ち着きな?」
「ええええいやいや落ち着けったって、実の兄だと思ってた兄が実は血がつながってませんでしたー! だなんて衝撃の事実にオレは直面してるんだけど?!」
「ていうか、トモちゃんなんで知らないんすか……俺がここに来た時確かにトモちゃん既にいましたよ?」
「覚えてねえ!! はっ、ニードは実の兄で良いんだよな?」
「いや、実はニードもお前と血がつながっていな……」
「嘘をつくなよくそ親父!! 騙されないでトモ、おれとお前は残念ながらこんな場面でくそくだらないジョークにすらならねえ戯れ言を言うようなこのクソ親父と母さんの子供だから」
「はっはっは」
「イサクさん、さすがにそれは……」
「おおおおおとりあえず親父は後で殴る。そんでマサ兄が養子だってのは、とりあえず、うんまあ理解した」
「それはよかった」
「でも何で急に家を出るなんてこと……」
「まあ、それは、余所者にしか分からないかもことかもしれないっす」
「余所者なんて寂しいこと言うなよマサ兄ぃ……」
「いや、まあ俺らはともかく、13番都市の奴らにとっちゃあまだやっぱりマサキは俺の庇護下に置いてもらってる余所者なんだろうな。でもよお、そりゃあトモだってそんな変わんねえぜ? どっかしらに所属して都市に貢献してはじめて都市民なんだからよ。そんなに独り立ちを焦ることもねえと思うがなあ」
「それでも、やっぱり俺は早く都市の皆さんにも認めてもらいたいんです」
「そうか。なら応援するしかねえなあ。なあ、そこで泣いてるお嬢さんよ?」
「まだ泣いてねえ!」
「そうだね。そこまで言うならおれもマサを応援するよ。そしてクソ親父は後で殴る」
「それにしても、トモちゃんは俺が養子だって本当に今まで気づかなかったんすか?」
「いやまったく全然気づかなかった」
「えー俺ちゃんと昔お前にマサキが養子だってこと言ったぞー?」
「本当かよクソ親父……」
「オレ全然覚えてない」
「いいや言ったね。そんときな、俺、トモに言われたんだよ。どうして自分の子供にそんなこというのー?! お父さんのバカー!! 鬼ー!! 悪魔ー!!! って」
「覚えて……あ、いや、それはぼんやり覚えてるかも?!」
「それは覚えてるんすね?!」
「トモったら可愛いなーもう」
「あーそうそう。言ったわ。言った。そんで言われてたわ。あん時はなんでマサ兄にそんな酷いこと言うんだって思ったけど、そうか、本当に養子だったのか……」
「いやあ、いくら言っても信じてくれなくてよー。最終的に俺が折れてトモとマサキに謝った」
「え、俺覚えてないです」
「まあお前はそうだろうな。隣でトモが満足げにしてたのを今でも良く覚えてるぞー」
「ああああなんか恥ずかしくなってきた……」
「いやでも、それくらいトモちゃんが俺に懐いてくれてたってことっすから、嬉しいよ」
「だってオレ、マサ兄のこと大好きだもん!!」
「トモ! それお兄ちゃんにも言って!」
「あ? ヤダよ」
「なんで?!」
「ニードさん気持ち悪いっす」
「はっはっはお前らホント仲良いなあ……」


(アイナ、見ているか?お前が愛した二人は本当に良く育ってくれた。名も知らぬマサキの両親よ、あなた達の息子は本当に立派に育った。)

※おまけ
イサクさんがトモにマサキが養子だと告げた日のこと
「おーいなんだ、トモ。お前またいじめられたのか」
「……みんながおれの髪の色がへんだって。おまえの父さんは髪が黒いのにおまえだけ真っ赤でへんだって。だからおれは父さんと血がつながってないんだって……」
「ぶはっ、なんだトモそんな下らねえことで泣いてたのかよ」
「だって、だってえ……!」
「ニードだって髪の毛真っ白じゃねえか。お前の母さんは良く地上にでてたから、汚染の影響だな」
「でも、マサにいちゃんは父さんと同じ髪の色じゃん……」
「あ? アイツは俺の子じゃねえしなあ」
「! なんで……」
「え、なんでって……」
「なんで父さん自分の子にそんなこと酷いこと言うのー?! 父さんのバカー!!! おにー!!! 悪魔ー!!!」
「えええええええいや悪かった、言い方が悪かったな! いや確かにマサキも俺の子だ、俺の子だけどな、俺とお前の母さんから生まれたわけじゃ……」
「父さんの嘘つきー!! 嘘だー!!!」
「えええええええええええええいやだってマサキが家にきたときお前家にいたじゃ……」
「うわああああん!!!!! 父さんがマサにいちゃんに酷いこと言うー!!! ばかー!!! だいっきらいー!!! うええええええええん!!!!!!」
「おいおいおい、ちょ、おま」
「さわんなー!! マサにいちゃんにひどいこという嘘つき父さんなんかだいきっらいだー!!!」
「あーもーなんか悪かったよ……うん、もうなんか……いいよ俺が悪かった、父さんが悪かったからいい加減泣き止めー?!」
「マサにいちゃんは父さんの子?」
「そうだよーマサキも俺の大事な子供だ」
「ホント?」
「あぁ、それは誓って本当だ」
「……ごめんなさいは?」
「…………ごめんなさい?」
「マサにいちゃんにもちゃんと言って」
「お、おぉ……」





「ってことなんだけどな、思い出したか馬鹿娘」
「あ、あー……言われてみりゃうっすら覚えてる。そーだそーだあの頃は赤い髪と目がコンプレックスでさ、父さんはきっと自分と同じ色のマサ兄の方が好きなんだろうなーって思い込んでたから、ショックだったんだろうな、オレ」
「いやあ、その時の俺の心情と言ったら! 子育てって難しいなあと痛感したよ」
「いやまあ……悪かったよ」
「ちなみにその頃の思い出と言ったら、そうやって泣かされたトモちゃんを見るたびに、トモちゃん泣かせたガキンチョどもを大人げない方法で泣かせに行こうとしてたニードさんを必死で止めてたことっすね」
「いやだって、妹泣かされたんだよ? 黙ってるわけにはいかなくない?」
「アンタの報復は大人げない上にえげつないんですよ!」
「はっはっはさすが俺の子だなあ」
「感心しないでくださいイサクさん。俺、止めるの必死だったんですからね?」
「いやあ俺は何度かGoサインだしたぞ?」
「うん。時々手伝ってくれたよね」
「駄目だこの親子」
「あーそれですぐにあいつらオレのこと見かけるたびに泣きながら逃げていくようになったのか……」
「そんなことが」
「ざっまあ」
「いじめられなくなって良かったというべきなのか、兄と父のせいで友達全然できなかったと嘆くべきなのか……」
「何か別の方法はなかったんですか」
「なんであんな奴らとトモが仲良くしなきゃいけないの?」
「はっはっは確かにアレはやりすぎだったなあ」
「駄目だこの親子」