opening

 彼女は、いたって平凡な少女だったと思う。
 クラスでも、目立つわけでもなく、かといっていじめにあうような子ではない。はっきり言って、私よりも地味な人生を送ってきたのではないだろうか。
 まぁ、そんな風に言っても私と彼女のかかわりだなんて、去年と今年同じクラスにたまたまなったというくらいのものだし、会話したことだってそんなにあるわけじゃない。
 ただ、顔と名前が一致する。それだけ。

   私はといえば、まぁ、学級委員長だなんてものをやっていたりフルートをやっていてソロコンで入賞するくらいで彼女よりは目立っていただろうけれど、まぁ、平凡といえば平凡。
 まぁ、そりゃ、お年頃なわけだから恋をしたりいろいろ悩んだりだってするけれど、特に何も無い、そんな繰り返しの毎日。

 
 だけど、今日、それが崩れた。



 昼休み、教室で何人かのグループに分かれていつものようにお昼御飯を食べていた。私も、彼女も。
 平和な時間だったそれは、突然現れた黒服の集団と銀髪のとんでもない美形の少年によって壊された。黒服の集団はクラスにいた人を無差別に殺していく。銀髪の少年は一目散に彼女の元へ行き、彼女を守る。
 
 黒服の持っているナイフが私の心臓に刺さったのを感じながら、唐突に私は悟った。

   私が平凡に過ごそうと、非凡に過ごそうと彼女が平凡に過ごしていようとそうでなかろうと、彼女は生まれながらの主人公であり、私は彼女の物語が始まるこの事件で殺されるためだけに生まれてきたのだと。
 私の注がれた親の愛も、コンクールで入賞できなくて悔しい想いをしたあの子達の想いも、私が築いた友情も、思い出も、私の存在全てが今日ここでこうして殺されるためだけにあったのだと。


 あぁ、彼女が泣きそうな顔をしている。銀髪の少年がそれを見て困惑している。

 おめでとう、貴方は主人公だったの。私はここで貴方の物語のオープニングを飾るためだけの存在だったの。





 くそったれ。


――平凡から非凡へと投げ出されてしまったと嘆く貴方へ
                      最高の呪いと祝福を――


 この瞬間のためだけに生かされてきた私と
 これから始まる物語のためだけに生かされる貴方と

 どちらがより不幸かしら?



 願わくば

 彼女の物語が苦しみに彩られているように。