鸞弥栄
あてんしょん!
※このSSはcock roachの「鸞弥栄」という曲を基に書きました。
自己解釈&妄想大暴走となっております。
ヤマなし意味なしオチなしの自己満足作品です。
+++++++
「人に遇ったのは、久しぶりだ」
ボクを見るなりそう言った彼と別れたのはもう何年前か。
鸞弥栄
「人に遇ったのは、久しぶりだ」
そうボクに声をかけてきた彼は全身真っ黒だった。漆黒の髪に、闇以外に何も写すことの無い瞳。そして、真っ黒のローブを着ている。この深遠の世界で、まったく存在感の無い存在なのに、声だけが凛と僕の耳に残った。
「君は? 何をしているの?」
彼はボクに人に遇ったのは久しぶりだといった。ボクは人に遇うのは久しぶりではないが、声を発するのは久ぶりだった。
彼は、ふと微笑んでこう応えてくれた。
「探し物をしているんだ」
「そう」
それだけで充分だった。この世界で探し物をするならば、探すものは一つしかない。
「鸞弥栄。風と共に羽ばたき色あせることの無い誰よりも輝かしく栄える一瞬の人生を送る鳥」
「うん」
「知らない?」
小首をかしげて、僕を見る真っ暗闇のその瞳がなんとなく印象的だと思う。
「知らない」
ボクは嘘をついた。
「そう、ありがとう」
彼はそれだけ言うと、ゆうるりと首を横に振った。さらり、とやっぱり真っ暗闇の髪がゆれる。 「役に立てなくてごめんね」
「いいや。さあ。また、鸞弥栄を探しに行こう」
そう言って、彼はまた歩き始めた。彼の後姿を見送る僕は、なんとなくだけれど微笑んでいたんだと思う。
彼は旅を続けたんだと思う。見つかることの無い鸞弥栄を求めて。
それはもう何年前のことか。
今、彼の屍を前に溢れて来るものはなんだ。
「死んじゃったんだね」
ボクは目の前の彼の屍に話しかけた。
「うん」
彼の屍は応えた。
「探し物は見つかった?」
「今、目の前に」
「そう」
風と共に羽ばたく鳥、鸞弥栄。ボク。
だけど、風の無いこの深遠の世界では一瞬を生きることも許されず。
彼の屍は語り始める。風と共に羽ばたいてみたかったと。誰に嫌われることも無い輝かしい一瞬を生きたかったと。ボクと生きたかったと。風を感じたかったと。ボクに風を感じさせたかったと。
その一つ一つに相づちを打っていく。最後に彼の屍はボクに優しげに訊ねた。
「鸞弥栄」
なに、とボクは答えたかったけれど、こみ上げる何かに邪魔されて息すらまともに出来ないのに声なんてとても出せなくて。
「羽根の響きを止むれば、我と共に落ちれるが、雲を抜けず果てるか? 雲を抜けて晴れるか?」
無機質な君が問いかける。僕はやっとのことで声を絞り出した。
「君はどうしてほしいの?」
あぁ、息が苦しい。
「お前に選んでほしい」
「そう」
「どうしたい」
君は残酷だ、残酷だね。
「ボクは、君と共に羽ばたきたかったのかもしれない。けれど、君はもう墜ちてしまったというならば、君と共に墜ちよう。一瞬を生きることなく、深遠の世界にて」
それだけだった。それだけだった。
※このSSはcock roachの「鸞弥栄」という曲を基に書きました。
自己解釈&妄想大暴走となっております。
ヤマなし意味なしオチなしの自己満足作品です。
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「人に遇ったのは、久しぶりだ」
ボクを見るなりそう言った彼と別れたのはもう何年前か。
鸞弥栄
「人に遇ったのは、久しぶりだ」
そうボクに声をかけてきた彼は全身真っ黒だった。漆黒の髪に、闇以外に何も写すことの無い瞳。そして、真っ黒のローブを着ている。この深遠の世界で、まったく存在感の無い存在なのに、声だけが凛と僕の耳に残った。
「君は? 何をしているの?」
彼はボクに人に遇ったのは久しぶりだといった。ボクは人に遇うのは久しぶりではないが、声を発するのは久ぶりだった。
彼は、ふと微笑んでこう応えてくれた。
「探し物をしているんだ」
「そう」
それだけで充分だった。この世界で探し物をするならば、探すものは一つしかない。
「鸞弥栄。風と共に羽ばたき色あせることの無い誰よりも輝かしく栄える一瞬の人生を送る鳥」
「うん」
「知らない?」
小首をかしげて、僕を見る真っ暗闇のその瞳がなんとなく印象的だと思う。
「知らない」
ボクは嘘をついた。
「そう、ありがとう」
彼はそれだけ言うと、ゆうるりと首を横に振った。さらり、とやっぱり真っ暗闇の髪がゆれる。 「役に立てなくてごめんね」
「いいや。さあ。また、鸞弥栄を探しに行こう」
そう言って、彼はまた歩き始めた。彼の後姿を見送る僕は、なんとなくだけれど微笑んでいたんだと思う。
彼は旅を続けたんだと思う。見つかることの無い鸞弥栄を求めて。
それはもう何年前のことか。
今、彼の屍を前に溢れて来るものはなんだ。
「死んじゃったんだね」
ボクは目の前の彼の屍に話しかけた。
「うん」
彼の屍は応えた。
「探し物は見つかった?」
「今、目の前に」
「そう」
風と共に羽ばたく鳥、鸞弥栄。ボク。
だけど、風の無いこの深遠の世界では一瞬を生きることも許されず。
彼の屍は語り始める。風と共に羽ばたいてみたかったと。誰に嫌われることも無い輝かしい一瞬を生きたかったと。ボクと生きたかったと。風を感じたかったと。ボクに風を感じさせたかったと。
その一つ一つに相づちを打っていく。最後に彼の屍はボクに優しげに訊ねた。
「鸞弥栄」
なに、とボクは答えたかったけれど、こみ上げる何かに邪魔されて息すらまともに出来ないのに声なんてとても出せなくて。
「羽根の響きを止むれば、我と共に落ちれるが、雲を抜けず果てるか? 雲を抜けて晴れるか?」
無機質な君が問いかける。僕はやっとのことで声を絞り出した。
「君はどうしてほしいの?」
あぁ、息が苦しい。
「お前に選んでほしい」
「そう」
「どうしたい」
君は残酷だ、残酷だね。
「ボクは、君と共に羽ばたきたかったのかもしれない。けれど、君はもう墜ちてしまったというならば、君と共に墜ちよう。一瞬を生きることなく、深遠の世界にて」
それだけだった。それだけだった。