うげらもげらうげらもげらうげらもげら

桜吹雪

朗らかな春の陽気にほろろと酔う

それは
光どもがようやく私たちのもとに帰ってきて
空気の中をくるりくるりと
回っているからなのですけれども

ほうら
空の方では青色が忙しなく踊っています
のんびりとした赤色は桜の木々を撫でております
他にも
黄や紫や橙や緑などの色々が
それはそれは楽しげに
そこらを飛び回っているのです

私たちにはそれが見えませんが
あんまりにも色々が忙しなく楽しげに飛び回るものですから
私たちの頭は知らずのうちにくわんくわんと揺れまして
まるで酔っぱらったような心地になるのですが
私たちはそれをただ
気の抜けた炭酸のような
なんともまあ間抜けな甘い匂いに感ずるのです
それがまた
アルコール3%の缶チューハイよりも
頭をぼんやり鈍くしてしまうようです

桜の花吹雪などと申しますけれども
あのモノクロームの
つまらない景色にばかり輝く
あの純白の冷たく清らかな雪では
とても酔えない

空は灰色で風は鋭く
雪ばかりがきらきらと美しい
あの雪景色では

おんな

生きると謂うことの仕合わせを
日々誤魔化しながら過ごすのです

たとい貴方が隣に居ずとも
仕合わせならばと思いましては
左様ならば仕方がない
只独りひっそりと
日々を浪費して往くのです

そうして寂しいわたくしの
あはれとも謂えぬ心持ちを
清浄に冷えた水道水とともに
ごくりごくりと飲み下すのです

腹に溜まったその水は
やがて羊水と業果てて
命宿さぬ哀しいものを育みましょう
誰も知らぬ哀しいものを育みましょう

貴方の忘却の中に去れども
腹の中に育ち続ける
それを孕みながら
生きると謂うことの仕合わせを
誤魔化し飲み下しながら
わたくしは

無題

平日真昼の電車に
がたごとがたごと
ゆるゆらゆり揺られながら
純光に満ちた車内を見やる

人がまだらの
空席が目立つその車内の
あなた達は何処から来て
何処へ行くというのでしょう
誰と出会い誰と分かれるのでしょう
何を大切にし何を蔑ろにするのでしょう

窓から射す純光に
見難くなった携帯の画面を
じっと見つめながら
あるいはうつらうつらと
夢見心地になりながら
あぁ、純光に優しく包まれれながら
文字を追う人もいるでしょう

言葉を交わすこともなく
ただがたごとがたごと
ゆるゆらゆり揺られあう

ぴたりと止まったままの車内に
かまいませんことよと言わんばかりの
外の景色はざらざら流れていくから
なくしていったもの達の様で
もうどうしようもなく
私はかなしい

ざらざら流れていった景色の果てに
自らの意志で降りていったあなた達は
何処へ行くというのでしょう

朝です

朝です
さみしくて仕方がないのです
わたしがわたしであるということがかなしいのです
その鬱々としないもっと健全な
静かにたゆたう湖のようなそれをいったいなにと名付けましょうか
沈黙でしょうか
沈黙にも似ています

哀愁。朝特有の憂鬱。
しかし湖は澄むのです
青く、透明に、

憂鬱な朝日に照らされ
あなたのこころに静かにたゆたう
澄んだその湖はかなしみに輝くのです

そして
湖の泥のように沈む
憤怒や悲哀や喜びをかき乱されたとき
またわたしはかなしい

只一つ
透明が風になでられるが
喜びとなりぬるを

只一つ
あなたの静かな湖に
ある日さかなを招き入れたならば
この悲しみも慰められましょう

それを愛と呼ぶならば
またわたしもさかなになると同じです

いつかの日
あなたの湖は枯れるでしょう
ゆっくりと増えた水嵩は
それと同じだけの時間を持って減りゆき

最後に残るのは
泥だけであるというかなしみ
かなしみに回帰するさみしさ

朝です。
だというのに世界はこんなにも清々しい

朝です。

うげらもげら

それに意味はないのです
ただくちにしたときに
あんまりにも愉快だったものですから
ほんとうに意味はないのです