第一章 ルフィルスタウン
夜が明けて、夜の冷たさが嘘のように気温は上昇する。街中ですら、フードをかぶったりターバンを頭に巻いていないと倒れてしまうような太陽の光の強さ。
トモは、日焼け止め用のマントをはおって昨日助けた旅人を探しに出た。
ルフィルスタウンは賑やかで広いが、昨日途中まで送った所から探していけばすぐに見つかるだろうとトモは目星をつけた。
そして、その予想は当たった。
昨日自分が逃げ出した場所まで来ると、そこには相変わらずフードをかぶって顔のよく見えない昨日の旅人、ユキがいた。
ユキのほうも、もう一度トモにあって話ができればと思って探しに来ていたのだった。
「お前、こっから先は裏通りだぞ? 懲りないのか!」
「や、トモさんを探してまして」
「え、おまえも?」
沈黙。
「とりあえず、店にでも入るか。奢るよ」
「お言葉に甘えます」
二人は表面上はそうでもないが、内心、とても驚いていた。
昨日の分かれ方から、お互い良くは思ってないだろうと思っていたからだ。それだけに、何で自分を探していたのかと、ものすごく不安にかられていたりする。
それでも、お互いにすぐに出会えた喜びは隠さなかった。
トモが、話し合いの場に選んだ店は、本通りからかなりはずれた人があまり来ないであろう小さな店だった。
「あんまり人が来ないけど、料理は美味いし俺のお気に入りの店なんだ」
店の外見は、建物にひびが入っていたりして、裏通り近くという場所も手伝ってか少し怪しいものだったのでユキは少し不安だったのだが、予想に反して店の中は明るく、落ち着いた雰囲気だった。
あからさまにほっとしていたのだろうか。トモは苦笑いを浮かべながら店の人に聞こえないように小さな声で言った。
「驚いただろ? 人が嫌いだからってこんなへんぴで危険な場所でやらなくてもって何回もいったんだけどよ。マスターが頑固で聞かないんだ」
ユキが視線をトモの視線の先にいるマスターに移すと、あまりに典型的な頑固親父といった雰囲気をかもしだしているので思わず笑ってしまった。
「トモ、きこえているぞ?」
「わりぃわりぃ。でも、本当の事じゃねぇか」
トモがそういうと、マスターはそっぽを向いてしまった。
ユキは悪いことをしたような気になったが、こんな会話はいつもの事のようでトモは気にした様子もなく、ユキに何が食べたいか訊いてきた。別に、食べたいものもなかったのでトモに任せるとユキが言ったら、とんでもない料理名が聞こえてきた。
「砂漠の中に輝く宝石のようなあなたの瞳に惚れた僕の恋文はあなたに届くことなく母親に見られて散々馬鹿にされた挙句おばさん情報網にて町中にばら撒かれてしまった。を二つ」
そして、近くの席に座った。
「なんですか、その、ありそうで多分ないエピソード」
思わず、席に座ると同時にユキはトモに聞き、それにトモは平然と答えた。
「あぁ、料理名。あれ、マスターの実際にあったエピソードらしいぜ」
「まじですか」
初めてこの店に来た人はその話を聞いておそらく、同じような反応を返すのだろう。トモは楽しそうに笑った。ユキの、記憶の中の幼い彼女と重なる。
あぁ、この笑顔だと、懐かしさが胸にこみ上げる。
「それから、敬語なんて使わなくていい。呼び捨てでかまわない」
「あ、じゃぁそうする」
そうして他愛ない会話を交わしてしばらく、マスターが例の料理を運んできた。
「相変わらず早いな」
料理の内容は、普通のケーキセットだった。飾りに凝ったケーキといい香りのするお茶。料理名の恋文をあらわしているのだろうか。ケーキの上にはハートの形をした木の実がのっかっていた。
ユキは、どうしてもあのエピソードが本当なのかどうかが気になり、初老に近づいているマスターの顔をまじまじと見てしまったりした。
それに気づいたのか、マスターが語りだした。
「アレは、ワシが18のときだったか。町のアイドルのレアちゃんに恋をしてな……」
「んで、すれ違うたびに笑顔で手を振ってくれるから相手も自分を好いていると勘違いして恋文を書いたら、母親に見られて母親の口から恋文の内容がご近所さんに広まって、レアちゃんだかなんだかの耳に入って、えぇー? いまどき恋文ぃ? しかも内容きっもーいありえなーい、でふられたんだろ?」
「むむぅ……要約すればな」
「要約しないと話長すぎるんだよ。だいたい、誰もそのエピソードについて詳しく聞きたいなんていってないだろ」
トモが、からかうように言うと、マスターは肩をすくめて厨房へと向かった。
「お茶目な人」
思わずユキがそう呟く。トモは、お茶を口にして真剣な表情になっていた。
「そういえば、人探しはどうなったんだよ」
ユキがこの町に来たのは、人探しのためである。なのに、この町にきてその人探しを放ってトモを探していたとは一体どういうことなのか。トモはふと疑問に思ったのだ。
「あぁ……えぇと」
ユキのほうも、まさか捜していた人物がトモだとは言えず曖昧に言葉を濁すばかりだった。
「偶然、宿屋でであって……でも、相手は僕のことを覚えてなかったから、見つかった、だけ」
「ふぅん」
ユキの声は震えていて、トモの目を見ないで答えた。
その、あまりといえばあまりにわかりやすい態度はトモでなくとも見逃すはずは無いだろう。しかし、何か訳があってのことだろうと考えて、深くはつっこまなかった。
トモは、訳ありのような事柄を、無粋に聞くような人物ではない。
眉間にしわを寄せて、もう一口お茶をすするトモを見て、ユキは真実を告げようかどうか一瞬迷った。けれども、トモはユキを覚えてはいないし、今それを言ったところでどうなるというのだろうか。相手に余計な気を使わせるだけだろう。それに、もし思い出してもらえたとしても、もうユキには、過去の自分と今の自分をつなげてもらえる気がしなかった。
ちらり、ともう一度トモのほうを見れば、室内なのにも関わらずかぶったままのフードに気がつく。
ユキもトモも室内に入ってからフードを取っていなかった。とはいえ、それを指摘されてもユキはフードをとる気はないのだが。
「トモ、フード取らないの?」
ユキは、忘れているのかと思って一応訊いてみた。
「いや、お前こそ、かぶったままじゃねぇか」
訊いてみれば、ユキもかぶったままだと指摘される。
トモは、赤い髪の毛を隠すためと髪と同じ色の瞳を目立たなくするために、ユキは、ウィザードである証拠を隠すために室内でもフードを取れずにいる。
二人は、曖昧な表情で何故フードをかぶったままなのか、その理由をつい想像してしまうのだった。
トモは、日焼け止め用のマントをはおって昨日助けた旅人を探しに出た。
ルフィルスタウンは賑やかで広いが、昨日途中まで送った所から探していけばすぐに見つかるだろうとトモは目星をつけた。
そして、その予想は当たった。
昨日自分が逃げ出した場所まで来ると、そこには相変わらずフードをかぶって顔のよく見えない昨日の旅人、ユキがいた。
ユキのほうも、もう一度トモにあって話ができればと思って探しに来ていたのだった。
「お前、こっから先は裏通りだぞ? 懲りないのか!」
「や、トモさんを探してまして」
「え、おまえも?」
沈黙。
「とりあえず、店にでも入るか。奢るよ」
「お言葉に甘えます」
二人は表面上はそうでもないが、内心、とても驚いていた。
昨日の分かれ方から、お互い良くは思ってないだろうと思っていたからだ。それだけに、何で自分を探していたのかと、ものすごく不安にかられていたりする。
それでも、お互いにすぐに出会えた喜びは隠さなかった。
トモが、話し合いの場に選んだ店は、本通りからかなりはずれた人があまり来ないであろう小さな店だった。
「あんまり人が来ないけど、料理は美味いし俺のお気に入りの店なんだ」
店の外見は、建物にひびが入っていたりして、裏通り近くという場所も手伝ってか少し怪しいものだったのでユキは少し不安だったのだが、予想に反して店の中は明るく、落ち着いた雰囲気だった。
あからさまにほっとしていたのだろうか。トモは苦笑いを浮かべながら店の人に聞こえないように小さな声で言った。
「驚いただろ? 人が嫌いだからってこんなへんぴで危険な場所でやらなくてもって何回もいったんだけどよ。マスターが頑固で聞かないんだ」
ユキが視線をトモの視線の先にいるマスターに移すと、あまりに典型的な頑固親父といった雰囲気をかもしだしているので思わず笑ってしまった。
「トモ、きこえているぞ?」
「わりぃわりぃ。でも、本当の事じゃねぇか」
トモがそういうと、マスターはそっぽを向いてしまった。
ユキは悪いことをしたような気になったが、こんな会話はいつもの事のようでトモは気にした様子もなく、ユキに何が食べたいか訊いてきた。別に、食べたいものもなかったのでトモに任せるとユキが言ったら、とんでもない料理名が聞こえてきた。
「砂漠の中に輝く宝石のようなあなたの瞳に惚れた僕の恋文はあなたに届くことなく母親に見られて散々馬鹿にされた挙句おばさん情報網にて町中にばら撒かれてしまった。を二つ」
そして、近くの席に座った。
「なんですか、その、ありそうで多分ないエピソード」
思わず、席に座ると同時にユキはトモに聞き、それにトモは平然と答えた。
「あぁ、料理名。あれ、マスターの実際にあったエピソードらしいぜ」
「まじですか」
初めてこの店に来た人はその話を聞いておそらく、同じような反応を返すのだろう。トモは楽しそうに笑った。ユキの、記憶の中の幼い彼女と重なる。
あぁ、この笑顔だと、懐かしさが胸にこみ上げる。
「それから、敬語なんて使わなくていい。呼び捨てでかまわない」
「あ、じゃぁそうする」
そうして他愛ない会話を交わしてしばらく、マスターが例の料理を運んできた。
「相変わらず早いな」
料理の内容は、普通のケーキセットだった。飾りに凝ったケーキといい香りのするお茶。料理名の恋文をあらわしているのだろうか。ケーキの上にはハートの形をした木の実がのっかっていた。
ユキは、どうしてもあのエピソードが本当なのかどうかが気になり、初老に近づいているマスターの顔をまじまじと見てしまったりした。
それに気づいたのか、マスターが語りだした。
「アレは、ワシが18のときだったか。町のアイドルのレアちゃんに恋をしてな……」
「んで、すれ違うたびに笑顔で手を振ってくれるから相手も自分を好いていると勘違いして恋文を書いたら、母親に見られて母親の口から恋文の内容がご近所さんに広まって、レアちゃんだかなんだかの耳に入って、えぇー? いまどき恋文ぃ? しかも内容きっもーいありえなーい、でふられたんだろ?」
「むむぅ……要約すればな」
「要約しないと話長すぎるんだよ。だいたい、誰もそのエピソードについて詳しく聞きたいなんていってないだろ」
トモが、からかうように言うと、マスターは肩をすくめて厨房へと向かった。
「お茶目な人」
思わずユキがそう呟く。トモは、お茶を口にして真剣な表情になっていた。
「そういえば、人探しはどうなったんだよ」
ユキがこの町に来たのは、人探しのためである。なのに、この町にきてその人探しを放ってトモを探していたとは一体どういうことなのか。トモはふと疑問に思ったのだ。
「あぁ……えぇと」
ユキのほうも、まさか捜していた人物がトモだとは言えず曖昧に言葉を濁すばかりだった。
「偶然、宿屋でであって……でも、相手は僕のことを覚えてなかったから、見つかった、だけ」
「ふぅん」
ユキの声は震えていて、トモの目を見ないで答えた。
その、あまりといえばあまりにわかりやすい態度はトモでなくとも見逃すはずは無いだろう。しかし、何か訳があってのことだろうと考えて、深くはつっこまなかった。
トモは、訳ありのような事柄を、無粋に聞くような人物ではない。
眉間にしわを寄せて、もう一口お茶をすするトモを見て、ユキは真実を告げようかどうか一瞬迷った。けれども、トモはユキを覚えてはいないし、今それを言ったところでどうなるというのだろうか。相手に余計な気を使わせるだけだろう。それに、もし思い出してもらえたとしても、もうユキには、過去の自分と今の自分をつなげてもらえる気がしなかった。
ちらり、ともう一度トモのほうを見れば、室内なのにも関わらずかぶったままのフードに気がつく。
ユキもトモも室内に入ってからフードを取っていなかった。とはいえ、それを指摘されてもユキはフードをとる気はないのだが。
「トモ、フード取らないの?」
ユキは、忘れているのかと思って一応訊いてみた。
「いや、お前こそ、かぶったままじゃねぇか」
訊いてみれば、ユキもかぶったままだと指摘される。
トモは、赤い髪の毛を隠すためと髪と同じ色の瞳を目立たなくするために、ユキは、ウィザードである証拠を隠すために室内でもフードを取れずにいる。
二人は、曖昧な表情で何故フードをかぶったままなのか、その理由をつい想像してしまうのだった。